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徳島家庭裁判所 昭和38年(少)567号 決定

少年 M(昭二二・七・一六生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、徳島県立○○高等学校第一学年に在学するものであるが、

第一、徳島県那賀郡鷲敷町大字○○△△番地○○中学校第三学年に在学中、高等学校入学試験をひかえ、中学校教師である実父および継母(少年の亡実母の妹)から、日頃、良い成績をとるよう叱咤激励されていたところ、その自信がなく、煩悶の末、第二学期頃から殆んど各試験のたび毎に深夜同校職員室に侵入して試験用紙を窃取したり或いは答案の書き直しなどを敢行していたが、昭和三八年二月二三日、二五日、二六日の三日間に第三学期末試験が行なわれるに際り、その試験用紙を窃取すべく、同月二五日午前一時三〇分頃、同校職員室に侵入して、これを物色中、たまたま同校教師、手束寿夫の机上に新聞紙、その近くの机上にマツチを置いてあるのを認めるや、もし学校が焼失すれば、学期末試験実施が不可能になるだろうと、ふと考え、そのため同校に放火して、これを焼燬しようと決意し、右マツチを擦つて、右新聞紙に点火して火を放ち同中学校舎等に焼え移らせ、木造瓦葺二階建本校舎一棟延一二八六・四平方メートル、同校宿直員の住居に使用する木造瓦葺平家建宿直室等一棟六〇平方メートル、木造瓦葺平家建特別教室(工作室)一棟一〇三・五平方メートル、東便所木造瓦葺平家建一棟三四・二平方メートル、西便所木造瓦葺平家建一棟五三・〇四平方メートルを焼燬した外更に土○○夫所有の同人およびその家族の現に住居に使用する同町大字○○△△番地、木造瓦葺二階建居宅一棟延一〇九平方メートル、その他物置、炊事場、浴場、便所等附属建物三八平方メートル、並びに○原○夫所有の、○谷○郎およびその家族の現に住居に使用する同所二三一番地木造瓦葺平家建居宅一棟三三平方メートル、および松○○子現に住居に使用する同所二三一番地木造瓦葺平家建居宅一棟三九・六平方メートルに燃え拡つて、これを焼燬した。

第二、同年四月、阿南市○○町、徳島県立○○高等学校に第二次試験に合格し、補欠入学したが、その後も実父および継母から、よい成績をとるよう、絶えず叱咜激励されていたところ、同月二七日に予定されていた同校実力テストをひかえ、自己の能力では到底父母の期待に応え得る自信がなく、煩悶の末、さきに鷲敷中学校を焼燬した試験が相当延期されたことを想起し、右テスト実施を不可能ならしめるために、同校に放火して、これを焼燬しようと決意し同月二七日午前一時頃、同校に赴き、同校小使室東側に接続する物置小屋に侵入し、同入口附近に山積みにしてあつたボール箱の中に、所携のマツチを擦つて入れこれに点火して火を放ち、右物置小屋これに接続し、人の現在する小使室、湯沸場等、木造セメント瓦葺平家建一棟建坪約七二・六平メートルに燃え移らせて、これを焼燬したものである。

(適用すべき法令)

右第一、第二の各事実につき、各刑法第一〇八条

(保護処分に付すべき事由)

一、少年の家庭環境、生活史等

少年一家の居住する地域は、山村の農家、商家が点在し環境としては良い方である。家庭は経済には比較的恵まれ父母の仲もかなり円満であつて、父は中学校の教頭で温厚実直な人柄である。実母は勝気で厳しくむしろ神経質な人で、少年が小学校六年生の当時病死するという不幸があり間もなく実母の妹である継母がきたが、継母もかなり勝気で、厳しい面があつたが、義理の仲ということで、かなり気を使つていたようである。少年は父の再婚には反対する気持があつたようであり、また日頃父や継母から勉学などについて喧しくいわれるので、両親に対しては親しみが薄く、むしろ亡母への憧憬が強かつたようであり、なお実妹とは不和で能力的にも劣等感をいだいていたようである。少年は、幼時発育が遅れたが、小学校に入学した初期頃は格別の問題なく、明朗、元気で成績も良かつたが、各学年を通じて落ちつきがなく、学年が進むにつれて成績も低下し、実母と死別後中学校に進学してからも欠席なく第一学年は成績も良好であつたが、第二学年から成績は漸次低下し、級友間では人気がなかつたようである。特に中学校三年生頃から勉学を苦にするようになり、深夜学校に侵入し試験用紙を窃取するという非行が始まり、同様非行が本件第一、第二の各放火後も続き、高校に入学後には、深夜他人のオートバイを窃取して、これに乗つて学校に赴き、答案用紙や、その採点を訂正するなどの非行を繰り返すなど本件非行に対する内省が認められないのみならず、その発覚を恐れるあまりとはいえ、他に疑いを転嫁させようとする作為的行動さえもみられた。

二、少年の性格等

少年は、表面素直のようであるが、実際は我がまま、反抗的で、短期で軽卒な面がみられ、神経質で直ぐ涙を出して泣き、またよくしやべり、明朗にみえるが、急にふさぎ込んで無口になることもあり、親しい友達が少なく、孤独で、小鳥等を飼育したり、花植木いじりをするなどの面がみられる。

鑑別の結果によると、知能は新田中B式ではI・Q一三五であるが、ウエクスラーベルヴユー法言語テストでではI・Q九八と大きい差があり、綜合的には良域程度のようであるが、実際的の能力は割合低く低通域を示すに過ぎないと考えられ、性格的には自己顕示性が極めて強く、思考が未熟なために、情緒不安定であり、自己本位な未熟さ、衝動傾向をもつたヒステリー性格者であると考えられ、精神病質者の疑がもたれている。

なお、少年の家庭には、重大な遺伝上の負因は認められないが、父方曽祖父の関係に精神病で死亡した人があるということである。

三、父母が教育に熱心のあまり、豊かな人間性の育成に対する配慮が足りなかつたなど、従来の家庭における指導方針に多少の過誤はあつたにしても、これにもとずく家庭的緊張や試験に対する嫌忌などが、学校放火の決定的要因であるとは、にわかに首肯し難く、むしろ一般的にはかなり恵まれた環境下にあると思われる少年が、本件非行におよんだことなどから考えると、前記のような資質上の負因に問題点があると認められ、家庭における父母の指導方針の改善のみに期待することは容易ではなく、本件非行の態様これにいたるまでの経過、結果の重大性、社会に深刻な不安を与えたことなどを綜合すると、少年に対しては、この際長期の専問的な教育を施し、その性格を矯正し、社会的責任の重大性などについて深い内省を求め、少年の健全な育成を期するため、施設に収容保護することを至当と認める。

よつて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条第三項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 成智寿朗)

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